プレビューモード

カテゴリー間に価値序列を作りたくない(2026年5月20日発行)

カテゴリー間に価値序列を作りたくない

北海道リーグの中で、昇格を望まないクラブがいるという話を聞きました。

競技レベルが上がる。対戦相手の強度も上がる。環境も変わる。

一般的には、そこを目指すものとして設計されているはずです。

それにもかかわらず、その機会を「望まない」という選択がある。

上に行きたくないのか。行けないのか。行く意味がないのか。

いくつかの見方ができます。

ただ、どれか一つに当てはめるとすぐに違和感が出ます。やる気の問題とも言い切れないし、合理的な判断とも言い切れない。

個別の事情で片付けるには、少し構造的な匂いがする。

それを否定することもできるし、理解しようとすることもできる。どちらにも振り切れないまま、少し考えています。

少なくとも自分の中で、「昇格=望ましいもの」という前提だけでは説明しきれない状態があると感じています。


昇格すると、何が変わるのか

昇格すると何が変わるのか。

まず、競技としての前提が変わります。

対戦相手のレベルが上がる。試合の強度も上がる。結果として、練習の質や量も引き上げる必要が出てくる。

同時に、競技の外側でも変化が起きます。

移動距離が伸びる可能性がある。遠征費用が増える。日程の負担も大きくなる。

チームとしても個人としても、求められるコミットメントが上がる。

制度として見れば自然な構造です。上のカテゴリーに行くほど要求水準が上がる。それに適応できるチームや選手が残る。

ただ、この構造は「選べること」を前提にしています。

本来であれば、上を目指したい選手は昇格を望む。そうでない選手は別の環境を選ぶ。そういう分岐があるはずです。

実際、単純に考えれば、1部に行きたくないなら1部を目指さないチームに移籍すればいい。個人の選択で解決できるようにも見えます。

ただ、現実にはその前提が成立していない場合があります。

地方ではそもそもクラブ数が少ない。女子フットサルの場合、選択肢が物理的に存在しないこともある。移籍という選択自体が成立しない。

その状態で昇格という出来事が起きると、個人の志向とは別のところで環境が強制的に変わることになります。

結果として、上を目指したいわけではない選手、現在の環境を維持したい選手も含めて、同じ構造に巻き込まれる。

ここで初めて、「望まない」という選択が出てくる余地が生まれます。


制度と実際の環境のあいだにあるズレ

ここまでを並べてみると、昇格という制度と実際の環境のあいだにズレがあるように見えてきます。

昇格は、本来は競技レベルの上昇です。より高い水準でプレーする機会を得ること。

ただ現実には、それと同時に費用の増加、時間的負担の増加、コミットメントの引き上げが発生する。

競技の話と生活の話が分離されていない。その状態で「上に行くかどうか」を一つの選択として扱っている。

さらに、選手の志向も一様ではありません。

上を目指して競技レベルを上げたい選手。現在の環境の中でプレーを続けたい選手。

同じチームの中にも、異なる前提が存在しています。

制度としては一方向ですが、実態としては複数の方向が混在している。

本来であれば、上を目指す選手は上の環境へ、そうでない選手は別の環境へ、と分かれるはずです。

ただ、その分岐が成立しない。クラブ数が少ない。選択肢が存在しない。

結果として、異なる志向の選手が同じ制度の中で同じ方向を求められる状態になる。

ここで、昇格という出来事が単純な「上に行くこと」ではなくなります。

誰かにとっては望ましい変化でも、別の誰かにとっては負担の増加になる。そのどちらも否定できない状態で、チームとして一つの選択をしなければならない。

この構造の中では、「望まない」という選択が出てくること自体は、特別なことではないようにも見えてきます。


価値序列を作りたくない

ここまでを前提にすると、「昇格するかどうか」を個別の意思の問題として扱うのは難しいように感じます。

本来は選手が選べばいい。上を目指したいならその環境に行けばいいし、そうでなければ別の場所を選べばいい。

ただ、その前提となる選択肢が存在しない場合、その考え方は機能しません。

昇格は「競技的な前進」ではなく、「環境の変化」として作用する。それを望まないという判断が出てくるのも自然に見えます。

一方で、競技として考えれば上を目指す構造は必要です。レベルが上がらなければ、競技としての魅力も環境としての密度も維持できない。

上に行くことを前提としない構造は、競技そのものを弱くする可能性がある。

ここで、上に行くことを前提とする競技構造と、それに適応できない、あるいは適応したくない現実がぶつかっています。

さらに、自分の中ではもう一つ前提があります。

それは、カテゴリーの上下に優劣をつけたくないという感覚です。

1部が上で、2部が下で、そこに明確な価値の差があるという見方には違和感がある。ただ、その前提に立つと、「上に行くこと」が唯一の正解ではなくなる。

そのときに、リーグの構造そのものをどう扱うのか。

昇格という制度を維持したまま、多様な志向を成立させることができるのか。それとも、下部カテゴリーの価値を別の形で設計し直す必要があるのか。

まだ判断はできていませんが、少なくとも「昇格を望まない」という選択を単純に否定することはできない状態にあります。


考えているのは、選択より前にある前提

昇格しないという選択をどう扱うのか。

ちなみに、だいたい大会の参加規定には、昇格の権利を得た場合は昇格する意思があること、という趣旨の規定が記載されていると思います。ただしこれはクラブとしての話なので、個人個人の判断はまた別になります。

それを「正しくない」とするのか、それとも、いまの構造の中で起きている自然な反応として見るのか。

現時点ではどちらかに振り切ることはできません。

ただ、少なくとも、個人の意思だけで解決できる問題ではないこと、制度と環境のあいだにズレがあることは見えてきています。

昇格という仕組みを前提にするのであれば、その中で何が起きているのかをもう少し正確に見る必要がある。

逆に、いまの状態を前提にするのであれば、制度の側をどう扱うのかも考えなければいけない。

昇格するかどうかという選択の前に、その選択がどういう前提の上に成り立っているのか。

現状、明確な答えはありませんが、その前提の方を考えています。


月額1,000円から。「支援」よりも「関係」へ。あなたの関わり方を選べる場