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時と想い by 星 ルアン

日常のワンシーン

朝、机に置いたカップから少しだけ湯気が立っていました。
まだ部屋が温まりきらない時間帯で、空気がゆっくりとしています。

視線を動かした先に、昨日そのまま置いていた布がありました。
整えて置いたはずなのに、左と右で色の重なり方がわずかに違って見える。
光のせいかもしれないし、自分の体温のせいかもしれません。

特別なことが起きているわけではないのに、
過ぎてきた時間と、これから向かう時間のあいだに
一瞬だけ立ち止まったような感覚がよぎりました。

作品と向き合う前にあらわれる、静かな気配。
その小ささが、朝の空気の中に薄く残っていました。


作品の輪郭

星ルアンさんの「時と想い」は、
“時間は直線に進むが、想いはその線を行き来する”という考えから生まれた作品です。

画面の左には「過去」、右には「未来」。
はっきりとした構図のようでいて、そのあいだに描かれた花々が、
時間だけでは説明できない変化を静かに示しています。

作者は、
「過去に足跡を残しながら未来に希望の光を描く」
とコメントを寄せてくれました。

過去を見つめ、現在に適応し、未来に向けて想いを定める。
その三つの動きが、一枚の中で無理なく並んでいます。

左から右へ流れる色は直線的ですが、
花が象徴する“適応”や“継承”の気配は、時間の線を越えて重なっていくように感じられます。


この作品がつくった時間

展示会場の通路の途中、視線の流れが少しだけ緩む場所がありました。
「時と想い」はその一角に置かれ、人の動きがそこで自然にゆっくりになります。

立ち止まった人たちはまず左側に目を向け、
そのあとで右側へと視線を移していく。
その動きが作品のテーマとよく合っていました。

大きな音がする会場ではありませんでしたが、
作品の前に生まれる短い沈黙から、
扱っている「時間」というテーマが静かに伝わってくる場面がありました。

選手が作品を見ていたときも、似た空気がありました。
長く立ち止まるわけではないけれど、
過去と未来という言葉を自然に受け取っているような、落ち着いた間がありました。

作品が光を受けて見せる“左と右の落ち着き方の違い”は、
会場を行き交う人の動線とも呼応していたように思います。


なぜこの作品を日常へ歩ませると決めたのか

23点から9点へ。
選ぶという行為には、どうしても小さな痛みが伴います。
作品の良し悪しではなく、クラブが今どこに立っているのか――。
その確認を何度も繰り返しながら判断は進みました。

「時と想い」を前にしたとき、
まず感じたのは“過去・現在・未来”という構造が
クラブの足元の問いと重なっていたことでした。

女子フットサルを続けていくには、
短期ではなく、長い時間の視点が欠かせません。
積み重ねてきた小さな判断もまた、未来へと線を伸ばす必要があります。

この作品がもつ、想いが時間を行き来するという視点は、
私たちが掲げた「交差し、適応し、継承する」というテーマとも
無理なくつながっていました。

強い主張ではなく、静かな理解に近いもの。
その温度が、判断の中心に自然と残りました。


終わりじゃない消費

作品が日常に入るとき、
それは所有ではなく、自分の時間の流れに線がひとつ加わるようなものだと思います。

「時と想い」は、過去と未来を分けながら、
そのあいだを行き来する想いをそっと置いている作品です。
日々の中で目に入るたびに、自分の立ち位置が少し変わることがあります。

買うことで終わるのではなく、
そのあとの生活の中でどんな意味が立ち上がるのか。
この作品は、その余白を静かに引き受けています。

長い挑戦を続けるには、
大きな出来事よりも、こうした小さな積み重ねのほうが確かな力になります。

日常へ作品を迎え入れるという小さな動きが、
未来へ向けた緩やかな前進になる。
その静けさを、クラブとして大切にしていきたいと思っています。


作品名:時と想い
作者名:星 ルアン

「交差し、適応し、継承する」というテーマに向き合ったとき、時間軸は直線的で交差しないように見えます。しかし、人々の想いは時を越えて交差しているのではないかと感じました。画面の左側が過去を、右側が未来を象徴しています。直線的で交差しない時間の流れの中で私たちは常に前へ進み、過去に足跡を残しながら未来に希望の光を描きます。過去を見つめて現在に適応を図り、未来へ向けて想いを馳せつつ適応の目標を定める。そのような思いを抱き、さまざまな花を咲かせた先に「継承」という花が咲くことを願って制作いたしました。